円珍に関連する重要な歴史資料の一つである「円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書」 は、円珍没後36年の927年(延長5年)に、法印大和尚という僧侶にとって最高の位と、智証大師という名誉ある号を醍醐天皇より円珍に贈られた際の文書です。この勅書は、三跡の一人として著名な小野道風により書かれており、しなやかで太く厚みのある筆致で、書聖・王羲之の書法を基調としつつも、柔和な筆使いによるふくよかで均整のとれた造形が特徴です。これは「王羲之の再生」と評され、後の和様 (日本風の書)の祖と称えられる小野道風の優美な書風を今に伝えています。


血縁関係にあった空海と円珍ですが、宗教的な背景では異なる道を歩みました。空海が真言宗を開祖し密教を大成させたのに対し、円珍は天台宗に属しました。円珍が天台宗を選んだ背景には、叔父である仁徳(最澄の弟子)が比叡山の高僧であったことの影響が大きいと考えられています。円珍の思想には空海の密教的な影響も見られますが、天台宗内では、天台宗の伝統を重視する円仁と、密教の要素を発展させようとする円珍との間で路線対立がありました。この対立が、円珍が比叡山を離れて園城寺を再興し、天台寺門宗の宗祖となる動きにつながったと言えます。空海と円珍は、異なる宗派で活躍しながらも、それぞれが日本仏教に大きな足跡を残しました。彼らの関係は、血縁だけでなく、思想的な影響や宗派の発展においても複雑な繋がりを示しています。
掲載品は、東京国立博物館所蔵の『国宝:円珍謚号勅書等 円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書』になります。
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)
※ 『空海の庫を開く 1の庫』掲載品
『空海の庫を開く』1の庫
2025年7月より、弘法大師・空海 御生誕1250年(2023年) / 御入定1200年(2034年) 企画として、『文字の国 ー 日本の文字の風景 空海の庫を開く』と題し、長期企画の複数巻(1の庫から8の庫)での書籍刊行を実施いたします。巻菱湖記念時代館 監修・株式会社 創三舎・株式会社 養玲社の合同企画事業として書籍をメインとし、WEBなどからも文字文化遺産を発信してまいります。書籍版とWEB版は、掲載内容が異なりますので、併せてご覧いただければと思います。
『空海の庫を開く 1の庫 』は、墨宝図版をメインとした作りとし、そこに略説明を加えたものとなっております。弘法大師・空海が繋げる文字文化・歴史・観光を主なテーマに構成いたしました。弘法大師・空海を中心とした、日本の文字文化から始まり、歴史・観光をご紹介する書籍となっております。
